「漢字」は人類史上最も文字数が多い文字体系と知られていて、その数は10万文字を越えると言われています。
現在では日本はもちろんですが、中国においても「漢字」が使われているのは広く知られていると思います。
しかし、この「漢字」の文化を共有している国は、日本と中国だけではありません。
本記事では漢字の歴史とともに「漢字文化圏」について説明していきながら、漢字の偉大さについて詳しく解説しています。
漢字文化圏とは?
出典:漢字文化圏
上でも書いてあるように、漢字文化圏に該当する国は日本と中国だけではありません。
上記の地図の国々が「漢字文化圏」と言われています。
日本
韓国
北朝鮮
中国
台湾
ベトナム
漢字の始まりは古代中国にさかのぼります。
紀元前1300年に発明された「甲骨文字」が起源とされています。
それから幾度にわたり改良され、6世紀から10世紀の間に現在とほぼ同じような形になりました。
日本の漢字
中国大陸から日本に漢字が渡ってきたのは4世紀から5世紀だと言われています。
それまで固有の文字を持たなかった日本でしたが、漢字が広がるにつれて日本においても歴史書などが書かれ始めます。
日本最古の書籍でもある「古事記」と「日本書紀」に関しては、漢字(漢文)で書かれています。
次第に日本独自の言葉、つまり日本語を漢字で表記するための「万葉仮名」というものが生まれます。
万葉仮名とは、漢字そのものの意味とは関係ない、いわゆる当て字のことで、ひらがなの無かった時代に使われていました。
安、伊、宇、得、於 (あ、い、う、え、お)
こんな具合です。
「いちいち漢字を書くの面倒くさい!!」
しばらくすると、このように言う人が出てきてひらがなが生まれました。(平安時代)
当初は主に女性が使っていました。
平安時代、女性が男性に手紙を送る際はひらがなで書いたほうが「かわいい」という理由で、主に女性の間でひらがなの使用が広まったとも言われています。
「学校に行く」
「がっこーにいく」
これは現代でも通じるものがありますね。
メールでひらがなを多用する女性の考え方と似ているかもしれません。
つまり漢字よりもひらがなの方が「柔らかい表現」なので、男性⇨漢字・女性⇨ひらがなが一般的でした。
中国大陸から伝わった漢字ですが、日本は漢字が来るまでは文字を持っていませんでした。
しかし、漢字の伝来とともに「ひらがな」と「カタカナ」という日本独自の言葉を造りました。
日本語の「漢字」が中国語や朝鮮語、ベトナム語の漢字と大きく異なるのは、同じ漢字なのに複数の読み方があるという点です。
これが日本語が難しい所以でもありますが、中国語を含む、他の漢字文化圏では一つの漢字に対し読み方は一つだけです。
日本語の漢字には「音読み」と「訓読み」が存在し、
訓読み=大和言葉、日本固有の言葉に由来する読み
音読み=漢字に由来する読み
例えば、
「動く」⇨これで表したときは「うご(く)」という訓読みになりますが、
「動作」⇨これで表した時は「どう(さ)」という音読みに変化するのが日本語の特徴です。
中国語や朝鮮語、ベトナム語の漢字においては「音読み」しか存在しません。
日本語の「訓読み」に該当する言葉は、そもそも朝鮮語やベトナム語では漢字では表せず「ハングル」や「アルファベット」で表します。
朝鮮半島の漢字
現代では韓国・北朝鮮といえば「ハングル」が知られていますが、この「ハングル」もほとんどが漢字に由来しています。
中国で生まれた漢字は前2世紀には朝鮮半島に伝わったと言われています。
日本と同じように朝鮮半島でも独自の表記を持たなかったため漢字を使用していました。
李氏朝鮮時代の1446年に「ハングル」が作られます。
漢字の簡略化という意味で、「ハングル」は日本のひらがなと特徴がとても似ています。
しかし、反発する人も多かったため、しばらく漢字が主に使われていました。
ハングルが一般的に使われるようになるのは19世紀後半〜日本統治時代になってからです。
朝鮮戦争後、韓国と北朝鮮の2国になるわけですが、「漢字=日本の統治時代」のイメージが強かったのと、独立意識を高めるという意味も含め、北朝鮮では漢字を完全廃止します。
韓国では「漢字を廃止すべきか」という議論が上がり、全面廃止ではなく新聞などでは漢字で表記されたり、カッコ書きで漢字を使っています。
というのも、
いどう⇨移動
いどう⇨異動
同じ「いどう」という読みでも漢字によって意味が異なる単語が日本語にはたくさんありますが朝鮮語も実は同じです。
朝鮮語で、「移動」・「異動」は、「イドン(이동)」となり、全く同じ発音&書き方になります。
日本語で言うところの「ひらがな」のみの表記と同じということになります。
なので、「イドン(이동)」これだけでは、「異動」なのか「移動」なのかややこしいということで、韓国では読み手のために「이동(移動)」というようにハングルの横にカッコ書きで漢字を用いる場合が多いです。
つまり、漢字は見ただけで意味をくみ取れるものなので非常に便利な言語でもあります。
ベトナムの漢字
ベトナムは紀元前111年から1000年に渡り、中国の支配下だったということもあり、日本と朝鮮半島と同じように過去に漢字を使っていました。
しかし、その後ベトナムでは「チュノム」と言われる独自の言語を使用していました。
しかし、この「チュノム」は非常に難解なのに加え、使う人も少なかったのが現実でした。
その後、ベトナムはフランスによって植民地化され、チュノムを含む漢字での表記が禁止されました。
現在ベトナムの言語表記がアルファベットなのも、フランスによる植民地政策の影響からです。
ちなみにですが、日本も第二次世界大戦後アメリカの統治下に置かれていた時代に、「もう少しで漢字が廃止されてしまっていた」という歴史があります。
「漢字は難解すぎる」と考えたアメリカ人が日本語をアルファベット表記に変更するという方針が本気で進められていました。
これは、「(当時)悪名高き日本人にアルファベットを使わせれば、西欧の文化に近づく&日本人を管理する上で簡単になる」という考えからでした。
しかし、「国体を維持する上で漢字の存続は最重要」と考えた日本政府は全力で反対します。
その時に作られたのが、「当用漢字」という概念です。
「当分の間用いる漢字」ということで、最低限必要な漢字2000字を制定し、「ローマ字に変更する前にとりあえずこれらの漢字だけは残しておいて」とアメリカに言います。
その後に「漢字廃止は無理だよ」ということを説得した上で、なんとかアメリカの漢字廃止論を逃れました。
現在知られている「常用漢字」という言葉はこの時の「当用漢字(当分の間用いる漢字)」から来たものです。
話がかなりそれましたが、ベトナムも現在ではローマ字表記ではありますが、ベトナム語の単語の70%が漢字表記が可能と言われています。
例えば、
・Trung Quốc (読み:チュンクオック)⇨ 中国
・Hàn Quốc (読み:ハンクオック)⇨ 韓国
・quốc gia (読み:クオックヤー)⇨ 国家
・quốc ngữ (読み:クオックグー)⇨ 国語
このように、日本の漢字の読みと非常に似ています。
参考:https://vietmaru.com/2013/11/language-vn-ch/
和製漢語
古代中国から日本含む多くの国や地域に伝来した漢字ですが、「日本で作られて、海外に逆輸入した漢字(和製漢語)」もたくさん存在します。
というのも、明治維新においてアジアの国よりもいち早く「文明開化」を果たした日本は西欧の文化を多く受け入れました。
「宗教」
「国民」
「国家」
「社会」
「民衆」
このへんの言葉は西欧の概念から作られた言葉です。
明治維新までは、アジアにおいて「国家」という概念はありませんでした。
英語の「Nation」という言葉が日本に来た時に、日本人はこれを「国家」という漢字に訳しました。
現代では「プログラミング」や「スマートフォン」などの単語はそのままカタカナを使っていますが、当時は「Nation」を「ネーション」とせずに漢字表記に訳しました。
理由は単純に「カタカナ表記よりも漢字の方が理解しやすいから」です。
西欧の概念をいち早く自国の言葉に訳し、理解することにより、教育度を高め、結果的にこれが「文明開化」に非常に役立ったと言われています。
この時に作られた「和製漢語」は中国や朝鮮半島、ベトナムに伝来し、現在でも使われています。
中国の国名でもある「人民共和国」というのは和製漢語で、日本から逆輸入された漢字です。
「民主主義」を韓国語では「ミンヂュヂュウィ(민(民)주(主)주(主)의(義))」と言いますが、これも日本から来たものです。
文字を見たただけで、「読み方はわからなくても意味はわかる」というのは漢字の最大の利点でもあります。
したがって、中国人の方とは漢字だけで意思疎通が可能です。
韓国でも学校で漢字を習っていたり、街中には漢字がたくさんあるので、一定数の方は漢字だけで意思疎通をすることが可能です。
漢字文化は東アジアを中心に輸出入を繰り返し、発展してきた言語だと言えます。
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