国家の歴史・自国の歴史教育というのは言うまでもなく非常に重要で、国民としてのアイディンティを形成するのに大きな役割を果たします。
それは政治的に偏ってはいけないと同時に、自国の尊厳を保つ物でないといけません。
起きた出来事は同じなのに国によっては全く違うストーリーになってしまうのが歴史でもあります。
筆者は現在アメリカにいますが、アメリカ人や中国人、韓国人の方とは歴史の話はできるだけしないようにしています。
というのも、国や文化が違えば歴史においてお互いが納得し合うことはまずできません。
つまり、学んだ歴史&教科書が違うので議論すること自体がそもそも無駄だとも言えます。
例えば、歴史学者の方々でさえも日本側と韓国側では意見が異なります。
つまりこれが国の歴史&世界史において論争が起きたり、あるいは戦争まで発展する理由でもあります。
当ブログでは度々歴史について書いていますが、本記事は「ドイツはどのように歴史を教えているのか」ということを詳しく解説しています。
「アメリカはどのように歴史を教えているのか」という記事も以前に書いているので気になった方は一読をお願いします⇩
ドイツの教育システム
ドイツでは日本で言う小学4年生までが初等教育にあたります。
5年生以降は「ギムナジウム」と言われる中等教育になり、9年制・10年制・12年制のそれぞれのコースに別れます。
歴史の授業はこのギムナジウム以降、つまり5年生から学び始めます。
日本との違い
日本の歴史教育では小学校・中学校では主に日本史が中心で高校生くらいになると中国史やヨーロッパ史を学ぶのが一般的かと思います。
ドイツでも日本と同じで歴史の授業は自国史を中心に進んでいきます。
しかし、ドイツ史以外で学ぶのは主にヨーロッパの歴史です。
特にギリシャ・ローマ、ルネッサンス、フランス革命、アメリカ独立などなど、ドイツにおいて影響を与えたとされているものがほとんどです。
したがって、ドイツでは基本的に中国を中心としたアジアの歴史やその他の地域の歴史にはあまり触れないのが基本です。
また、歴史の授業そのものも日本とはかなり異なります。
日本では縄文時代から昭和まで一通りやって、年代などは「良い国(1192)作ろう〜」という感じで暗記するのがお決まりですが、ドイツではこのような教え方はしません。
「いつなにが起こったか」というよりも、「これはなぜ起こったのか」ということについて深堀していきながらクラスで議論をしたり作文を書いたりします。
州によって異なる義務教育
これは「アメリカの歴史教科書」の記事でも書いており、同じことがアメリカにも言えるのですが、ドイツの義務教育は州が管理しています。
したがって、同じ「自国史」でも多少ニュアンスが異なることもあります。
これはアメリカの歴史教育にも言えることですが、例えば日系人が多かったアメリカ西海岸では「日系人収容所(第二次世界大戦中に日系人の人が強制的にアメリカ政府によって収容された)」に関して細かく教えていますが、東海岸などその他の地域ではそもそもそんな歴史は知らないという人も多くいます。
これはアメリカにおいての話ですが、州ごとに扱う歴史教科書が違うと同じドイツ人でも歴史認識の違いが生まれるという問題点もあります。
しかし全ての州で教えることが義務化されていることが「ナチス」に関しての歴史です。
「ドイツではナチスについてどのように教えているの?」
次ではこのような疑問にお答えしていきます。
ナチスについて
ドイツの歴史教育では近代史にかなりの時間を費やします。
特にナチス・ドイツの台頭、ヒトラーがどのようにして政権を握りドイツを第二次世界大戦に導いたのかというのを徹底して教えています。
もちろんドイツにも極右団体や歴史修正主義者などの反発がありますが、ドイツではナチスを極端に美化する行為は犯罪となっています。
それだけでなく、かつてナチスがやっていた敬礼のポーズもドイツでは犯罪です。
したがって、ドイツの授業では発言する人は普通に手を上げるのではなく人差し指を上げます。
手を上げる行為はナチスを連想させるからだそうです
以前ヨーロッパの友人が日本の運動会の選手宣誓の様子を見ていた時に唖然としていましたが、あのポーズはヨーロッパでは絶対にしてはいけません。
ここまで禁止にすると「表現の自由」を抑圧しているようにも思えなくもないですが、それだけ過去のナチス・ドイツがした残虐な行為はドイツの人たちにとっては感情的なものということですね。
ホロコースト
日本では中学・高校の修学旅行で広島・長崎の爆心地や沖縄の地上戦の惨劇を学んだ方も多いと思います。
ドイツではホロコーストの実態を徹底して学びます。
高校生くらいになるとナチスを政治的な観点から批判したり、「なぜヒトラーが政権を握ったのか」というのを民主主義的な観点から生徒が議論したりもします。
一部の学校では、
「ヒトラーを生んだのはドイツ国民である」
「したがって当時のドイツ国民全員に罪がある」
「過去の過ちは絶対に繰り返してはならない」
日本人の感覚だと自分の先祖に対してここまで言うのは不敬である気もしますが、ドイツではここまで教えます。
教科書にはアウシュビッツ強制収容所の写真とともに残酷な描写も入っています。
このことから多くのドイツ国民はナチスに対して当然ですが批判的な見解を持っています。
人種差別について
ドイツだけでなくヨーロッパや北米などの国々では「人種差別は人類史上最低な行為」ということで徹底して教えています。
これを教える過程で最も使われるのが、ナチスのホロコーストであったり、アメリカの黒人差別の歴史、KKK(クー・クラックス・クラン)です。
「じゃあ欧米では人種差別はないの?」
と言えばそれも違いますが、少なくとも人種差別について意識が高いのは確かでもあります。
例えば、ナチスのシンボルでもある「ハーケンクロイツ」のマークはヨーロッパや北米ではタブーです。
ハーケンクロイツ=人種差別
この認識があります。
では日本ではどうかと言うと以下の動画でよくわかります⇩
この動画では日本にいる方々に「ハーケンクロイツ」を見せて、これが日本ではどんな意味があるのかというのを海外の方向けに発信しています。
これはYouTube上で170万回以上再生されていて、3万件近くのコメントが記されています。
動画を見ていただいたらわかるかと思いますが、日本において「卍」⇦これは「マンジ」であり、寺院を表すマークです。
ここまでは良いのですが、インタビューに答えているほとんどの方々(若い人たち)は、「ハーケンクロイツ」を知らなければ、ナチスすらも知りません。
「日本は昔ナチスと同盟を組んでいたのに知らないのはおかしい」
海外の方々はこぞってこのような反応を示しています。
この動画は日本においてどれだけ近代史の歴史教育がおろそかにされているのかを明白に示しているとも言えますね。
何度も言いますが、「欧米に人種差別はないのか?」と言えばそれは間違いですが、「人種差別は最低な行為」ということを学校で徹底的に教えているのは事実です。
この人種間の意識の違いに関しては日本よりも圧倒的に進んでいるのも現実と言えます。
逆に言えば、現在のヨーロッパやアメリカにおいて移民や難民を多く受け入れたりなどして、その反発で人種間の争いや分裂が激化しているのもこれが原因とも言えます。
日本に住んでいる外国人の友人は、「日本では人種差別で殺されたりはしないけど差別がないわけではない。日本の差別は欧米のよりも無知や偏見から来ているものが多い」ということを以前言っていましたが、まさにこれは歴史教育が一つの要因でもあるかもしれません。
歴史教育に求めるもの
ここまで見て、日本とドイツの歴史教育の方針は全く違うことがわかりますね。
日本では明治維新からその後の文明開化のところまでは詳しくやりますが、近代史はあまり詳しく教えていません。
特に第二次世界大戦に関しては、良くも悪くもあまり踏み込まないのが日本の歴史教育の特徴です。
逆にドイツでは近代史(ナチス)についてものすごい時間をかけて教えています。
一番最初でも書いていますが、歴史教育というのはとても複雑で「誰もが納得する歴史」というのは恐らく存在しません。
「どの時代の歴史を・どのように・どれだけの時間教えるのか」
これだけでも相当な議論がされますが、右も左も最終的なゴールは「過去の戦争は繰り返さない」というのは共通認識です。
現在ではドイツとフランスの両国で作成された「共通歴史教科書」というものも存在します。
これは2003年1月に生徒代表550人あまりがベルリンに集まり、両国がこれから取り組むべき課題を議論したことが始まりとされています。
「無知によって生じる偏見を取り除くため、両国が同じ内容の歴史教科書を導入することを求める」
生徒たちはこのように決議をまとめ、実際にこの教科書は高等教育の最終学年で使われています。
これは日本と韓国が同じ歴史教科書を使うのと同じくらいのもので、画期的かつありえないほどのインパクトがあります。
つまりドイツの歴史教育はこれほど日本とは異なります。
何度も言いますが、これは良くも悪くも言えません。
しかし少なからず歴史教育において日本がドイツに学べるものがあるかもしれませんね。
「他にも世界の歴史や文化について詳しく知りたいな」
こんな方、以下の記事がおすすめです⇩
コメントを書く